北千住の孤独のグルメ、タイ料理編

ドラマ

グルメドラマの金字塔『孤独のグルメ』。

その魅力は、主人公・井之頭五郎(松重豊)が訪れる店の選び方や、食を通じて描かれる人間ドラマ、そして「一人飯」の奥深さにある。

その中でも、視聴者の印象に残ったのが、北千住でタイ料理に出会うエピソードだ。

東京・北千住といえば、下町情緒漂う街でありながら、近年ではグルメの街としても注目を集めているエリア。

和食、洋食、中華はもちろん、東南アジア料理など、国際色豊かな飲食店が増え、食のバリエーションが豊かになっている。

本記事では、「北千住のタイ料理」回を特集として、ドラマ内での描写、店の雰囲気、登場した料理、そしてこの回がなぜ印象的だったのかを掘り下げていこうと思う。

北千住の孤独のグルメ、タイ料理編:北千住という街の懐の深さ

まず注目すべきは、舞台となった北千住という街の特性だ。

日比谷線や千代田線、JR常磐線など複数路線が乗り入れるターミナル駅であり、通勤・通学の要所として多くの人が行き交う。

駅前にはマルイやルミネが立ち並ぶ一方、細い路地に入れば昭和の香りが漂う居酒屋や食堂が顔を覗かせる。

そんな北千住の“懐の深さ”こそ、五郎の食欲をかき立てる舞台としてふさわしい。

この回では、五郎がふとした偶然から、ひっそりと佇むタイ料理店に足を踏み入れるシーンが描かれている。

「腹が……減った」から始まる異国の食との出会い

本エピソードでも、五郎の「腹が……減った」の一言から物語が始まる。

仕事の合間、昼どきにふと立ち寄った北千住。

見慣れた和食の店を横目に、五郎は静かに路地を進み、目に入ったのがタイ国旗を掲げた小さなレストランだった。

このシンプルな流れが、『孤独のグルメ』の最大の魅力でもある。

“思いつき”と“偶然”が重なることで、彼のグルメ旅がスタートする。

誰もが真似できそうな「ごく普通の一人飯」が、なぜか心に残る――そんな展開が今回も展開される。

北千住の孤独のグルメ、タイ料理編:店内に漂う本場バンコクの香り

扉を開けた五郎が出会ったのは、まさに“異国情緒”に満ちた空間だった。

壁にはタイの風景写真、仏像や布の装飾が飾られ、BGMにはタイのポップスが静かに流れている。

決して広くはないが、店内にはどこか懐かしさと落ち着きがある。

「ここは、日本なのか?」と感じさせるような空間に、五郎も少し戸惑いながらも席に着く。

そして、彼の前にメニューが差し出される。

注文したのは「ヤムウンセン」と「クイッティオ・ナーム」

数あるタイ料理の中で、五郎が選んだのは「ヤムウンセン(春雨サラダ)」と「クイッティオ・ナーム(タイ風ラーメン)」のセット。

日本人にはなじみの薄い組み合わせだが、それだけに食欲をそそる。

まずはヤムウンセン。パクチーの香りが鼻を抜け、ライムの酸味、ナンプラーの塩気、そして唐辛子の刺激が一気に押し寄せる。

春雨のツルツルした食感と、プリッとした海老の歯ごたえが心地よい。

五郎は、「おお……これは、胃が目を覚ます」と心の中で呟く。

続いて運ばれてきたクイッティオ・ナームは、透明感のある鶏ガラスープに細い米麺が入った一品。

あっさりとした味わいの中に、鶏の旨みとパクチーの風味がじわりと広がる。

「優しいのに、芯がある」――そんな印象が五郎の顔から読み取れる。

北千住の孤独のグルメ、タイ料理編:異文化の食に癒やされる五郎の表情

『孤独のグルメ』が他のグルメドラマと異なるのは、五郎が“食と向き合う表情”にある。

誰かと会話を交わすわけでもなく、スマートフォンをいじるでもない。

彼はただ静かに、ひと口ひと口を丁寧に味わい、その味を心の中で反芻する。

それが、視聴者にとっては“共感”となる。

「一人で食べるのって、いいな」と思わせてくれる時間がそこにある。

視聴者の心を掴んだ理由とは

この北千住のタイ料理回が、多くの視聴者の心を掴んだ理由は明確だ。

それは、下町と異国が交差するという“意外性”と、“誰にでも起こりうる出会い”が描かれていたからだ。

ドラマでは大げさな演出はない。

ただ、静かな演技と丁寧なカメラワークが、「こういうの、あるよな」と視聴者の記憶をくすぐる。

そのリアリティこそが、『孤独のグルメ』の真骨頂でもある。

北千住の孤独のグルメ、タイ料理編:まとめ

食後、五郎は水を飲み干して静かに言う。

「また来よう、ここはアリだな」。

この一言に、彼の満足感がすべて込められている。

北千住という街の懐の深さ、タイ料理という異国の食文化、そしてひとりの男が食と真剣に向き合う時間。

それらが交差したこの回は、まさに『孤独のグルメ』らしさが詰まったエピソードだった。

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