数々の人間ドラマが繰り広げられてきた「深夜食堂」。
その中でも、特に異彩を放ち、多くの視聴者の記憶に深く刻まれているのがシーズン1の第5話「バターライス」です。
一見すると地味なこの料理が、なぜこれほどまでに人々の心を惹きつけるのでしょうか。
この記事では、「バターライス」回をネタバレありで徹底的に深掘りし、その物語に隠された巧妙な仕掛けと、心温まるメッセージを解き明かしていきます。
「深夜食堂」って結局、バターライスの回が一番最高だよね🍚🧈 pic.twitter.com/zTcahkMn6J
— ハブ🐍 (@fxTrader_habu) April 19, 2023
深夜食堂、バターライス回のネタバレ!:偉そうな料理評論家と、思い出の味
物語は、一人の男が「めしや」の暖簾をくぐるところから始まります。
男の名前は戸田山(演:岩松了)。
彼は有名な料理評論家で、マスター(演:小林薫)の作る料理を片っ端から「不味い」「なってない」と酷評します。
店の常連客たちは不穏な空気に包まれますが、マスターは動じません。
そんな戸田山が唯一、「これはまあまあかな」と口にしたのが、メニューにはない「バターライス」でした。
アツアツのご飯にバターを乗せ、醤油を数滴たらしただけの、あまりにもシンプルな一品。
彼は週に一度のペースで店に現れ、バターライスだけを注文して帰っていくようになります。
同じ頃、店には韓国から旅行に来たレイ(演:ソ・ユジョン)という女性客がいました。
彼女は日本の有名な料理評論家を探しており、その人が昔、バターライスを「世界で一番うまい料理だ」と言ってくれた思い出の相手だというのです。
常連客たちは、その評論家が戸田山に違いないと確信し、二人を引き合わせようと画策します。
しかし、戸田山はレイに会うことを頑なに拒否。
彼がバターライスを食べるのは、遠い昔に亡くなった、旅芸人一座の仲間だったゴローさん(演:あがた森魚)との思い出を懐かしむためだったのです。
貧しかった時代、二人で空腹を紛らわすために食べたバターライス。
戸田山にとってそれは、何物にも代えがたい「ソウルフード」でした。
物語の終盤、ついに戸田山がバターライスを「世界で一番うまい」と言った相手が、レイではなく、ゴローさんだったことが判明します。
常連客たちの勘違いと、戸田山の純粋な思い出が交錯し、物語は温かい笑いとともに幕を閉じるのでした。
久しぶりに
深夜食堂
バターライスの回
やっぱり
いいなああつあつの
ごはんに
バターを
埋めてから
かつお節を
ふりかけて
キッコーマン
かけてたべるの
うまいんだよなあ pic.twitter.com/Oh0CyFDnZX— nekosuta (@nekosuta) March 11, 2023
深夜食堂、バターライス回のネタバレ!:料理「バターライス」が持つ二重の象徴性
このエピソードの核となる「バターライス」。
この料理は、物語の中で二つの重要な役割を担っています。
「鎧」を脱ぎ捨てさせる魔法の料理
戸田山は、世間的には成功した料理評論家です。
彼は常に尊大に振る舞い、他人の料理をこき下ろすことで自らの権威を守っています。
これは、彼が社会で生き抜くために身につけた「鎧」と言えるでしょう。
しかし、バターライスを前にした時、彼はその鎧を脱ぎ捨て、ただの「戸田山青年」に戻ります。
高級食材も、複雑な調理法も一切ない、この貧乏飯だけが、彼の心の最も柔らかい部分に触れることを許された唯一の料理なのです。
バターの香りと醤油の塩気は、彼を貧しくも希望に満ちていた青春時代へと一瞬で引き戻す、タイムカプセルのような役割を果たしています。
誰もが持つ「思い出の味」のメタファー
バターライスは、非常にシンプルで、家庭でも簡単に作れる料理です。
だからこそ、見る人それぞれが持つ「自分だけの思い出の味」を投影しやすい、普遍的なアイコンとなり得ています。
それは、風邪を引いた時に母親が作ってくれたお粥かもしれませんし、部活帰りに友達と食べたカップラーメンかもしれません。
料理の価値は、値段や格式だけで決まるのではない。
誰と、どんな状況で食べたかという「記憶」こそが、最高の調味料になる。
この「深夜食堂」全体を貫くテーマを、バターライスという最もシンプルな料理を通して見事に描き出しているのです。
巧みなストーリーテリングと人間描写
このエピソードの魅力は、単なる人情話にとどまらない、その巧妙な脚本にあります。
先入観を裏切る心地よい「どんでん返し」。
視聴者(そして常連客たち)は、物語の途中で「戸田山の思い出の相手=レイ」という図式を自然に信じ込みます。
恋愛話に発展しそうな雰囲気が漂い、「偉そうな評論家も、昔は純情な恋をしていたんだな」と微笑ましく見守ります。
しかし、物語は最後にこの先入観を鮮やかに裏切ります。
思い出の相手は、韓国からの美しい女性ではなく、旅芸人のゴローさんという気のいいおじさんだった。
このどんでん返しは、サスペンスのような緊張感ではなく、温かい笑いと安堵感をもたらします。
人の思い出や絆は、恋愛という形だけではない。
性別や年齢を超えた友情の中にこそ、生涯忘れられない宝物があるのだと、この物語は優しく教えてくれるのです。
評論家・戸田山の人間的魅力
一見すると嫌な人物である戸田山が、物語の終わりにはどこか愛すべき存在に見えてくるのも、このエピソードの素晴らしい点です。
彼が頑なにレイとの対面を拒んだのは、自分の大切な思い出を他人に汚されたくない、ゴローさんとの純粋な記憶をそっとしておいてほしい、という切実な願いからでした。
彼の横柄な態度は、実は繊細で傷つきやすい内面を守るための防衛反応だったのかもしれません。
マスターが何も言わず、ただ黙ってバターライスを作り続けたように、彼の心の奥底にある純粋さを見抜いていたからこそ、この物語は深い余韻を残すのです。
深夜食堂、バターライス回のネタバレ!:まとめ
「深夜食堂」の「バターライス」回は、料理評論家の虚勢と純情、常連客たちの温かいお節介、そして心地よいどんでん返しが見事に融合した、シリーズ屈指の名編です。
たった一杯のバターライスが、人の心の鎧を溶かし、遠い日の美しい記憶を呼び覚ます。
そして、私たちの誰もが持つ「忘れられない味」の記憶を呼び起こし、深い共感を誘います。
この物語は、料理の本当の価値とは何か、そして人と人との絆の多様さを、静かに、しかし力強く語りかけてきます。
もしあなたが少しだけ人生に疲れたなら、深夜食堂の暖簾をくぐり、自分だけの「バターライス」を注文してみてはいかがでしょうか。
きっとマスターは、何も言わずにそれを作ってくれるはずです。
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