『その着せ替え人形は恋をする』は、雛人形職人を目指す繊細な少年と、明るくて行動力のあるギャルの成長と恋の物語。
異なる世界に生きていると思われた2人が、コスプレを通じて距離を縮めて心を通わせ、付き合うまでには、不器用ながらも真っ直ぐな想いと、互いを大切に思う優しさがありました。
この記事を読むとわかること
- 新菜と海夢が出会い、惹かれ合う過程
- 2人が付き合うまでの心情と名場面
孤独な少年と社交的な少女
人付き合いを避け、自分の世界で静かに生きていた五条新菜(わかな)。
明るくて人気者のギャル喜多川海夢(まりん)は、そんな新菜の人生を大きく変える存在でした。
誰にも言えなかった「好きなこと」を、初めて肯定してくれたのが、海夢だったのです。
出会いは家庭科準備室
新菜は、雛人形の顔を描く「頭師」を目指し、日々地味で繊細な修行を続ける高校生です。誰にも趣味を明かさず、クラスでは友達もいません。
ある放課後、新菜がひそかに雛人形の衣装製作をしていた無人の家庭科準備室に、海夢が突然現れます。
雛人形に話しかける様子を見られた新菜は、「気持ち悪い」と言われるのではと身構えますが、まりんは違いました。
「すっごーい!めっちゃキレー!」
新菜にとって、自分の大切なものを初めて褒められた瞬間でした。
「好き」にまっすぐな海夢
海夢が家庭科準備室に来た理由は、好きなキャラのコスプレ衣装を作るためでした。しかし、ミシンの腕は壊滅的。彼女は新菜に衣装作りの協力を依頼します。
自分の「好き」を、真正面からぶつけてくる海夢に、新菜は戸惑いつつも心を動かされました。
この時、彼の中に「海夢を助けたい」という感情が芽生え始めたのです。まだ恋ではありませんが、特別な感情の種でした。
「作る人」「着る人」を超えた絆
海夢のコスプレ衣装制作を通じて、二人の距離は急速に縮まりました。「作る人」「着る人」という関係を超え、信頼と尊敬、そして憧れが交差する時間が流れていきます。
それは互いにとって、自分を肯定できる新しい世界との出会いでもありました。
魂を込めた衣装制作
海夢の熱意と依頼を受けて、新菜は人生で初めてコスプレ衣装づくりに取り組みます。
締切や素材選び、細部へのこだわり・・・大変な作業の中でも、新菜は楽しさとやりがいを感じていました。
見た目だけでなく、コスプレキャラの内面も理解しようと、新菜は魂を込めて衣装を仕上げます。
「共に作りあげる」という経験は、二人の信頼関係を育んでいきました。
「奇麗でした」
コスプレイベントの終了後、新菜は海夢に伝えます。
「喜多川さん・・・とても奇麗でした・・・」
この言葉には、特別な意味が込められていました。
幼少期、雛人形の美しさに心打たれた新菜にとって、「奇麗」という言葉は軽々しくは使えない、真心からの表現。
その重みを知っていたからこそ、涙を見せる海夢。その瞬間、自分の中に芽生えた感情が恋だと気づき始めます。
日常の中の特別な時間
衣装制作の合間、海夢と新菜はさまざまな思い出を重ねます。
新菜にとっては初めての経験ばかり。雛人形しか眼中になかった彼の世界を広げる鍵になっていきました。
共に過ごす時間の中で、二人の感情は少しずつ「恋」へと育っていくのです。
「来年は・・・」
初めての海は思っていた以上に大きくて美しく、「いろんなものを見ろ」という祖父の言葉を思い出す新菜。その後、トンビにハンバーガーをさらわれてしまいます。
夏祭りでは、身体中に響くような花火の迫力に圧倒され、鼻緒ずれが痛む海夢をおんぶして歩きます。
「来年は絶対気を付けてくるから」という海夢。2人の中に、未来を共有したいという気持ちが確かに芽生えていました。
電話越しの「好きだよ」
一緒にホラー映画を見た夜、続きを1人で見てしまい、怖さで眠れない海夢は新菜に電話します。
話しているうちに寝落ちしてしまった新菜に、海夢は「ごじょー君好きだよ」と小さく告げます。
ちょっとした誤解に揺れる心
絆が育まれる一方で、すれ違いも増えていきます。
お互いが大切だからこそ、ちょっとした誤解や気持ちのズレが心に影を落とします。それは、恋をしている証かもしれません。
舌打ちじゃない
ハロウィンパーティでは、着ぐるみ姿の新菜がナンパされている海夢をかばいます。しかし、ナンパと思ったのは早とちりで、落ち込む新菜。
かばってくれたことがうれしくて、海夢は着ぐるみごしにキスをします。
しかし、新菜はその音を「舌打ち」と勘違い。舌打ちじゃないなら何かと聞かれても、海夢は言葉にできず真っ赤になります。
お泊まり事件で勘違い
終電が止まり、海夢の家に泊まることになった新菜。
「眠らなければお泊まりじゃない」と自分に言い聞かせて、エナジードリンクを買います。海夢はそれを精力剤と勘違いし大混乱。
緊張の一夜を過ごしたあと、「何もなかった」ことに拍子抜けしつつも、海夢は本気で新菜のことを好きだと再確認します。
勇気を持つための時間
ついに告白を決意した海夢。
新菜も、自分の中に芽生えた新たな感情に戸惑い、悩み続けます。
一歩が踏み出せない海夢
自分から告白すると決めた海夢。
しかし、海夢と付き合っているか仲間に聞かれて否定していた姿を思い出すと、なかなか一歩を踏み出せません。
海夢の「好き」を否定したくない
冬コミで海夢が多くの人々の注目を集める姿を見て、新菜は初めての感情に襲われます。
「誰にも見られたくない」「人前に立ってほしくない」
その思いが、海夢の好きなコスプレを否定してしまうようで、彼は強い自己嫌悪に陥ります。
そして想いを伝える
すれ違いと沈黙を経て、ついに新菜は自分の想いに向き合います。
その瞬間、二人の関係は大きく変わりました。
「好きです」
「喜多川さんが好きなんです」
ようやく絞り出した言葉に、海夢は飛びつくように新菜を押し倒して叫びます。
「わたしもごじょー君が好き!!」
「やきもち焼くくらい好きってことじゃん!」
ギャルらしい爆発力で、何度も「好き!」を連呼する海夢に、新菜はただただ呆然。
不器用でまっすぐな恋が実った
二人の恋は派手ではなく、真っすぐで、ひたむきで、お互いを思いやる気持ちに満ちたものでした。
「好き」という気持ちに素直になれなかった時間があったからこそ、告白の瞬間は輝いていました。
この記事のまとめ
- 新菜と海夢はコスプレを通じて急接近
- 日常のささやかな思い出を重ねて、絆が育つ
- 嫉妬や不安からすれ違いも発生
- 107話でついに両想い、付き合うことになる
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