日本列島には毎年夏から秋(特に7月~10月)にかけて、頻繁に台風が接近したり上陸します。
台風が直撃する地域では公共交通機関や工場設備などがストップしてしまったり、場合によっては通勤時に人身事故などが発生する危険性があるため、経営者は会社を休みにするかどうかの判断を迫られます。
この時に、労働者に有給休暇を使うように促す会社は、日本では当たり前のように存在します。
労働者にしてみれば、有給休暇は自分が休みたいタイミングで取得したいもの。
「台風などの災害で業務ができない時に、労働者に有給休暇を使わせるのは不当なのでは?」
このような疑問が出てくるのは当然だと言えるでしょう。
そこで今回は災害時の有休消化問題について、労働法を交えながら解説していきたいと思います。
参考になれば幸いです。
台風で有給休暇はおかしい?:災害休暇制度がない日本の労働法
結論から言うと、災害時に会社が労働者に有給休暇の消化を促すことは、良い雇用慣行であるとは言えません。
年次有給休暇制度は多くの国や地域で法的に義務付けられていますが、その本来の目的は、「労働者に定期的な休息を与え、健康や精神的な安定を促進すること」であり、 災害時の安全確保とは目的が異なります。
日本の労働基準法で取得できる有給休暇の日数は、勤続年数が6年未満であれば10日程度、最大でも20日までとなっています。
特に、災害に見舞われる頻度が多い日本において、災害を理由に労働者が有休消化をさせられるのがおかしいことは、言うまでもありませんね。
災害が多い国には災害休暇制度があるもの
これで有休使わすなよ(・ω・`)
別枠の災害休暇を用意すべきだろうよ https://t.co/b0JxmNdBnN— コンゴーハルナ (@kngo_hrn) June 18, 2018
災害時の有休消化問題の背景には、日本の労働法に災害休暇制度が整っていない実情があります。
一般に、台風や地震、火山噴火といった災害が頻発する国や地域では、有給休暇制度とは別に、災害休暇制度や特別休暇制度といった、災害時に労働者が行使できる休暇制度が法律で認められていることが多いです。
一例を挙げるなら、台湾・フィリピン・インドネシア・ニュージーランドなどがそうですね。
こうした地域では、災害によって労働者やその家族が影響を受ける場合に、特別休暇の取得が労働法で認められています。
日本においても、会社によっては労働契約や就業規則に『災害休業制度』などの規定があるケースもありますが、これは法律で定められたものではなく、あくまで会社側が提供する福利厚生の一部ということでしかありません。
災害が多いにも関わらず、労働法で災害休暇が定められていない日本は、先進国の中では珍しい部類だと言えるでしょう。
有休取得率が低い日本
日本の有休取得率の低さを示すためのグラフなのに左端の100%超えが気になりすぎてそれどころでは無い
(日本は取得日数自体は少なくなく、祝日が多い) pic.twitter.com/T4qsjZOP66— みくさ (@kotatsu_mikusa) January 4, 2024
アメリカの旅行通販会社エクスペディアの調査によると、世界の主要16地域における2022年の有給休暇取得率は、アメリカが35%、日本が60%と、日本はアメリカに次いでワースト2位の結果となっています。
アメリカでは法的に有給休暇が定められていないため、実質的に日本がワースト1位ということになってしまいますね。
世界的に見てこれほど有休取得率が低い日本の労働者の性質も、この問題を後押ししていると考えられるのではないでしょうか。
「どうせ消化しきれない有休なら、災害時に使ってしまってもいいだろう」
労使どちらの意見とも捉えきれませんが、このような考え方が広まってしまった結果であると言えるでしょう。
特に戦中・戦後に醸成されてきた「休まずに働くのが当たり前」といった価値観や、そもそも法律や自己の権利について疎く、権威や周囲の人に流されやすい民族性なども影響しているのかもしれませんね。
台風で有給休暇はおかしい?:現状、災害時の給料は保障されないが…
日本の災害時の有休消化問題は、世界的に見てもおかしいことではあるのですが、法律で災害休暇が認められていない以上は、現状を受け入れる他ありません。
ただ場合によっては、労働者が有休を消化せずとも休業手当を受け取れるケースもあります。
ここでは、災害時の状況をパターン別に分け、法的にどういった義務や権利が発生するかを解説していきますね。
被災によって会社の業務全体が停止した場合
東日本の時もだけど
19年の千葉県台風被害だって年単位かかった
たった数ヶ月で何でも復興できたら誰も苦労しないのです復興を祈るのはいいとして頑張っているのを難癖つけるのはいただけない
誰かを堕とさなきゃ持ち上げられないなら褒めたことにはならないんてすよ https://t.co/lXyOTBt0Fm— 昭:PHN,NS (@wX4uUEixOvDBpOD) March 28, 2024
台風や地震などの災害によって、会社全体の営業が不可能となり、労働者が働きたくても働けなくなるケースは、日本ではよく起こりますね。
しかしそんな場合でも、現状の法律では労働者に休業手当が支給されることはありません。
災害で仕事がなくなった時は、会社側に何かしらの責任があるケースを除き、基本的に無給となってしまいます。
したがって、有給休暇日数が残っているのであれば、不本意ながらもその日に割り当てている労働者が大半なのが実際のところです。
会社は止まっていないが、労働者が働けない場合
ナニコレ?台風!?
って、くらい凄まじい雨風の中
出勤でーす☆😅
(嵐の中では輝けません・笑)
もう既にズボンはずぶ濡れ😅
体力ゲージも赤点滅してます(笑)
出勤が徒歩や自転車の方は
特に気を付けて下さいね~☆ pic.twitter.com/h2Z7FfJAfZ— 古今東西☆趣味研究所 (@syumilaboratory) March 29, 2024
会社は被災せず通常通り営業していても、労働者が住む地域の被害が深刻で、出勤が困難になる場合もあります。
このような場合でも、会社側に責任があるわけではないため、労働者に休業手当が支払われることはありません。
通勤困難になる可能性がある場合、事前に『有休奨励日』として労働者に有給休暇の取得を呼びかける会社は多いですね。
「出勤しなければ基本的に無給扱いですが、有給休暇を使うことはできますよ」と呼びかけることは違法にはなりません。
被災していないが、会社が休業を命じた場合
生きる為の知恵として覚えておいてほしい。
コロナで仕事が減り、困っている人は泣き寝入りしちゃダメだよ。
契約上決められた勤務時間を短縮させられたり休ませられたりしたらアルバイトでも休業手当てを会社に請求できるからね。
労働基準法第26条は6割
民法536条第2項は10割好きな方を選んで。 pic.twitter.com/CSA57LUhLZ
— 相談に乗っている桜井🌺 (@sakurai7715) April 16, 2020
例えば、台風接近時などに飲食店の経営者が「明日は客足が遠のくだろうから、休業日にします」と、経営判断で休みにするケースなどがあります。
実際には大した被害がなく、労働者が働ける状況だったにも関わらず休業を命じた場合は、会社側に休業手当の支払い義務が発生します。
日本の労働基準法ではその金額を「平均賃金の6割以上」と定めています。
労働基準法第26条
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。
労働者の中にはこのルールを知らずに、働けるにも関わらず会社都合の休みに有給休暇を使わされてしまうケースがあります。
しかし、会社が休業手当の支払いを回避するために、働ける労働者の有給休暇を勝手に充当することは違法となりますので、注意して下さいね。
有給休暇は労働者の権利ですので、いかなる理由があったとしても、会社が労働者に無断で行使することはできません。
台風で有給休暇はおかしい?:まとめ
いかがだったでしょうか?
日常的に当たり前になっていることでも、疑問を感じることは多いですよね。
法律問題などは複雑で難しい側面もあり、つい無関心になってしまいがちですが、健全な社会生活を送るためには、避けて通ることはできません。
知らず知らずのうちに損をしないためにも、積極的に議論する姿勢は大切だと言えるでしょう。
今回は、災害時の有休消化問題について解説させていただきました。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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